第二回JIDAフォーラム 「デザイン思考」のカタチ | Industrial Design

第二回JIDAフォーラム 「デザイン思考」のカタチ

レポート:井原恵子

タグ:JIDAフォーラム,デザイン思考    カテゴリー:EVENT

JIDA・ビジョン委員会の主催による「デザイン思考」をテーマにしたフォーラムの第2回。2014年9月26日の夕刻から、前回と同じ東京ミッドタウン・デザインハブで開催された。

 今回も来場者100人を超える盛況ぶりに、ビジョン委員会の山田晃三氏も挨拶では「 “デザイン思考” とうたうと人が集まる。インダストリアルデザインやプロダクトデザインのセミナーではこうは行かない」と、インダストリアルデザインを60年間考えてきたJIDAとしてはやや複雑な心境をのぞかせながらも、「デザイン思考」がひとつの先端であるならば、デザインの基層を振り返りつつ先端を理解したい、と述べた。

 前回フォーラムの “デザイン思考とは何なのか?” という視点から理論中心の議論に対し、第2回は「デザイン思考のカタチ」と題して、現場で行われているデザイン思考を探った。スピーカーはデザインマネジメントの専門家、エムテドの田子學氏、企業内デザイナーの立場でデザインを推進してきたオムロンヘルスケアの小池禎氏、そして大手フリーランスデザイン事務所の立場からGKインダストリアルデザインの田中一雄氏が登壇し、幅広い事例を紹介。モデレーターは第1回に続き、千葉工業大学の山崎和彦氏がつとめた。

 

「なぜ、誰のためにそれを作るのか」を問う

最初のスピーカー田子學氏は、エムテドとしてデザインマネジメントの実務に携わるかたわら、慶応大学システムデザインマネジメント研究科などで教鞭をとる。「 “デザイン思考” という言葉自体は意味のないバズワード」と、のっけからバッサリ切り捨てた上で、「今、なぜ世の中が “デザイン” を求めているのか?」を考える手がかりとして、自らのデザインマネジメントの仕事を紹介した。

 「今の世の中に足りないのは、なぜそれを作るのか、作る必要はあるのか、という視点。そこまで掘り下げる必要がある」と田子氏。売れた商品のモデルチェンジや金型代償却といったつくり手の都合ではなく、そのモノを作る意味を考える必要がある。そこでのデザインは色や形だけでないことはもちろん、思考だけでもない。特にこれからの製品づくりには、今までとは違い単体ではなくモノをとりまくシステムの視点がいる。ブランド、デザイン、システムが一体となれば、ばらばらでは生まれ得なかった価値を発揮する。そうした価値を生みだす仕事で、企業経営者とがっぷり四つに組んできた事例を紹介した。

 ひとつが鳴海製陶の「OSORO」。ナルミは陶磁器業界の老舗だ。業界全体でデパートに依存する従来のやり方が成り立たなくなり、閉塞状況に陥る中、社内ではディテールの「曲線が」「レリーフが」「焼成技術が」と狭い思考回路に入り込んで、「誰のために、何を作るか」を考えることがなくなっていた。

 陶磁器には長い歴史があるが、それを使う人々の暮らしは大きく変化している。食べ物の購入、保管、調理、食事のしかた、保存、片付け、器の収納、そして全てにわたる環境問題への配慮まで、現在の食生活に悩みは多い。これに対し田子氏は、あえてナルミの主力であったボーンチャイナではなく、陶磁器とシリコンを組み合わせたソリューションを提案した。下ごしらえや調理に使ってそのまま食卓へ出せ、ラップを使わずに冷蔵庫で保存でき、食洗器で洗えて、スタッキングでき省スペースな器「OSORO」だ。生活と社会・環境を結んだデザインは最終的に数々の賞をとったが、開発は簡単な道のりではなく、3年の期間をかけた経営者との二人三脚だった。

 

「自分ごと」にならなくてはデザインの力は発揮できない

 もうひとつの事例は、住宅金物メーカーのプロジェクト。やはり住宅着工数の下降、住宅価格の下落などから業界全体が苦境に立たされていた。これを打破する提案の着眼点は、従来のBtoBからBtoBtoCへ、すなわちエンドユーザーである一般生活者へのメッセージを確立することだった。ここでも、変化する生活感覚にメーカー側が追いついていない実態があった。たとえば洗濯ばさみや物干し竿といった、どの家にもあるモノをきちんとデザインする。夜の洗濯や部屋乾しといった現在の生活実態に応える商品は、ユーザーからかつてない歓迎を受けた。

 こうした手応えを通して、クライアント内部でも少しずつエンドユーザーの視点を意識し始めたと言う。「他人に見られることの重要さ」に目覚め、ショールームをリニューアルすると、これまで無関心だった地域住民からも反応が返ってくるようになった。以前は価格を先に決め、コストを逆算して作ってきた商品を、「誰のために・何を作るか」から考えられるようになった。

 田子氏は、ロジックとセンスに加え、デザインには愛が必要だ、と言う。現在流通している「デザイン商品」のほとんどはロジックとセンスで出来ているが、そこに「愛」が加わることはすなわち、ものづくりが「自分ごと」になるということだ。ロジック+愛は、創業者が率先して開発する中小企業やエンジニア主導のものづくり。センス+愛は、アーティストの仕事。ロジック+センス+愛をバランスよく組み合わせなければデザインの真価は発揮できない、と田子氏は訴えた。

 

オムロンの企業文化に埋め込まれた「デザイン思考」

 田子氏が企業の外から、内部で意識しづらい点を明確にあぶり出してデザインを提案し問題を解決してきたのに対し、オムロンヘルスケアの小池氏は企業内で、外からは見えにくい形で取り組んできたデザインの考え方を紹介した。

 企業文化の芯をつくるものとして、創業者の思想がある。オムロンの創業者、立石一真の考え方は、実は現在のイノベーションやデザイン思考のアプローチと通ずるものがあった。次々と新しいことを取り入れる、組織の上下とは関係ない仕事のしかた。ビジョン先行でものを考え「まずやってみよう」という姿勢などはラピッドプロトタイピングそのものだ。

 「まずチームを少数にしてしまう。そうすれば精鋭にならざるを得ない」というチームビルディング。製品開発のエンジニアを「ソーシャルニーズをつかんで来い」と営業の最前線へ送り込んだ。現在でも新しい取り組みと言われそうな活動だ。その中から、1960年に登場し工場のオートメーションを変えた無線スイッチに始まり、世界初の自動改札ゲート(1967)、世界初のATMなどが生まれた。1970年に立石の発表した「SINIC理論」では、技術と科学によって社会が変わっていくモデルを描き、今もオムロンではこれを基盤として「健康工学」など社会貢献の視点を掲げているという。

 

医師と患者を結ぶ:ビジョン先行のソーシャルデザイン

 それが端的に現れている分野が、世界シェア1位の家庭用血圧計。高血圧が関連した健康リスクは多いが、血圧が高いにもかかわらず通院も処置もしていない人は多い。また梗塞などの予防には血圧の測定が第一歩だが、病院で測るとしばしば平時とは違う数値が出てしまう。かと言って患者が自宅で測って記録した手書きノートは、医師にとっては解読が難しいことも多い。

 そこで血圧計に通信機能を持たせ、データを吸い上げて病院へ送るしくみが構築された。まさに社会的役割のデザインだ。福島県のある町では、お年寄りが毎日自宅で測る血圧データがそのまま、町で1ヶ所の総合病院へ送られ、血圧が閾値を越えれば担当医師の携帯へ通知が行き、それを見て医師が患者を呼び出すという、町ぐるみの血圧管理サービスを提供した。医者と患者をつなぐ「メディカルリンク」だ。その結果お年寄りは手書きの記録とりから解放されて朝晩の血圧測定がぐっと楽になり、ひとり暮らしでも見守られている安心感をもって生活できるようになり、そしてこの町では心筋梗塞の発生件数が全国最低レベルまで下がった。

 医者と患者の関係を変えることにもなるこうした試みには、医療側専門家の理解も必要で、簡単なことではない。血圧計のメディカルリンクは3年目になっても利益が出ないが「利益を出しながら社会に貢献したい」というのがオムロンの考えだと言う。ビジョンがあり、それを実現する技術が生まれ、科学の進展によって社会が変わる──言ってみればそれがオムロンのデザイン思考だ、と小池氏は結んだ。

 

デザインワークの中にもともとあった「デザイン思考」

 田子氏の、デザイナーがあらためて「デザイン思考」を言う必要があるのか、という疑問。小池氏の、自分たちの根っこにある仕事への取り組み方、考え方を見直せば、その中にまさにデザイン思考はあったのでは、という問題提起。3人目のスピーカー、GKインダストリアルデザインの田中一雄氏の答えははっきりしていた。デザイン思考は、デザイナーをはじめとした思考プロセスの中に「もともとあったもの」であり、それに名前をつけて大きく扱われることが今までなかっただけだ、と言う。

 デザインとはもともと、人の中にある潜在ニーズを取り出す仕事だ。その取り出したものを美しい形に作り上げるのもデザインだが、形を仕上げる前までの部分がデザイン思考にあたる。デザイン思考とは、新しいものごとを創出する手法であり、一人の天才型イノベーターを乗り越える集合知である、と田中氏は述べた。

 別な面から言えば、従来のデザインではステイクホルダー(多くはメーカー等のクライアント)からデザイナーへ与件が提供され、それを受けてデザインしたものがデザイナーからユーザーへ渡る。現在ではこれが単発の一方通行では済まず、ユーザーからインプットを得てデザインしたり、それによってデザイナーからクライアントに対して課題を再定義することが増える中で、それを呼ぶ言い方として「デザイン思考」の言葉が使われている面もある。

 また「デザイン思考」では、多様な関係者間でプロセスを双方向的に共有する都合上、思考のパーツを「客観化・構造化・共有化・認識化」する必要があるが、それは優れた一人のデザイナーの頭の中で行われていたことと大差ない。そしてこの手法は決して万能ではなく、デザイン思考の手法を重ねたからと言ってすばらしい結果が保証されるわけではない。

 

新しい関係者を巻き込み、議論を広げるときに効く

 ここまで前置きした上で田中氏は「総合デザイン事務所におけるデザイン思考アプローチ」と題して、その足跡を3つの事例の中に紹介して見せた。ひとつは三洋電機のブランド再構築プロジェクト。デザイン原則を確立することによって、クリエイティブな活動の出発点となる原型づくりだ。固定された形にとらわれず、価値・表現・組織のマネジメントを巻き込んだ。また「富山ライトレールのトータルデザイン」では、ライトレールをとりまくデザインが自治体・民間事業者・市民をつなげ、1つの価値を生み出す器となった。シンボルマークでは地元デザイナー、擁壁では地元企業、ベンチへのドネーション公募、地元高校生のデザインによるラッピング車両など、デザインを介して主体的に参加するプレイヤーを増やすことで求心力を高めた。

 3つ目の事例、富士通デザインとのプロジェクトは、聴覚障碍者とともに会議を行うためのツール開発。ここではソリューション以前に、そもそも問題はどこにあるのか、デザインが何をすればよいのかを探ることに重点が置かれた。いずれも従来の決まったプロセスをたどるだけのデザインとはひと味違う、それでいてデザインならではの思考プロセスによって価値を作り出した経験を紹介して、発表の最後を締めくくった。

 

デザイン(思考)の大事さを、どうやって理解してもらう?

 続く質疑応答の口火を切った山崎氏はまず、自身が昨年、経産省の「デザイン思考活用促進検討委員会」に参加した経験からの質問を提示。多くの企業で「①デザインの役割、大切さ、デザイン思考を理解してもらえないこと。そして②デザイン思考を取り入れてみたがビジネスにつながらなかった」という実態についてどう思うか、まず理解してもらえないという状況に対してどんなアドバイスがあるか、3人に問いかけた。

 田子氏の答は「一部門の話にしないこと」。「自分はいつも部門ではなく、会社を動かせる、決済権のある人と話す」と言う。事例で紹介した鳴海製陶の社長も最初はデザインには関心がなく「任せたよ」という、田子氏いわく「最悪のパターンだった」。まずちゃんと関心を持ってもらい、いっしょに考えるところからスタートする。だから時間をかける必要がある。紹介した事例でも「1年くらいすると雰囲気が変わってくる。くたびれたオジサンだった担当者が格好よくなり、自信にあふれてくる」。デザインとはこういうことで、マインドが変わることが大事、というのが田子氏の答だ。

 小池氏はオムロンへ移る前は、自動車メーカーのマツダにいた。そこではデザイン承認会議でデザイナーが前面に出るやり方になじんでいたが、オムロンではそれがなかったので、クリエイティブ会議の場をもうけるよう働きかけたと言う。デザイナーが直接、社長へプレゼンする場だ。数年間続いたが、現在はなくなり、事業戦略が前面に立つようになったと言う。なくなって、やはり考えているストーリーがきちんとつながらなくなって困った、という経験を紹介した。

 田中氏はフリーランスの立場から「その経営者がデザインを『どう理解しているか』を(ネガティブな面も含めて)理解することから全てが始まる」。その上で「デザインは経営資源」と説明し、少しずつ「洗脳していく」。また実際の経験から、プロセスを共有化する仕組みとしては「デザイン思考は有効」と語った。「デザイナー以外の人がデザイナー的な思考になじみ、クリエイションを社内に浸透させるには役立つ。それによって社内の空気が変わる」。それがビジネスにつながらないという訴えは「サイクルとしてつながっていないだけではないか」というのが田中氏の意見。「デザインはラブレターなので、自分ごとでなくてはならない。他人に代書を頼んでもうまくいかないのでは」。

 

立場と責任によって「デザイン思考」の成果は変わる?

 小池氏は社内で現在に至るまで、さまざまなレベルでデザイン思考を導入する試行錯誤の経験を紹介した。失敗した例では「きちんとチームを組み、フィールドワークを実施し、半年かけてある商品・サービスを開発したが、社内からはわからないと言われ続けてストップしてしまった。ところが1、2年後には結局、そのプロジェクトの結論と同じことを経営者が言い出した。経営者はそのときのフィールドワークに行っていなかった」。また現在も、アメリカのデザイン思考を専門とする会社とプロジェクトが進行中だが「はじめ社内デザイナーはそれを冷ややかに見ていたが、そのうちオムロンから独立したベンチャーを作ろうという話になって感心した」と言う。その経験から「デザイン思考は、最終的には当事者にビジネスの責任を持たせるべきなのかもしれない」とも。

 意見が一周してマイクが会場にまわると、ビジョン委員会の山田晃三氏から「世の中で成功している商品には、ちゃんと物語があり、デザイン思考はそこに入っているんだなと思った」。その上でスピーカーの面々に、インハウスとフリーランスの立場の違いについて尋ねた。特に田中氏の三洋電機の事例では「外から見たからブランドを整理し、シンプルにすることができたのでは?」社内の立場で仕事をするオムロンの小池氏に、意識の違いを問いかけた。

 小池氏の答は、自身がオムロンに入るとき、オムロンのブランディングに対して批判的な意見を積極的に述べ、「何としてもオムロンらしさをきちんと構築したかった」。ある意味、同様に外からの視線を持っていたことになる。さらに内部の人間になってからも、複数の外部デザイナーと密につきあいながらビジョン作りや意識の統合を進めたが、内外の関係をよい形で継続することが難しくなった時期もあり、現在ではもっぱら内部で「オムロンらしさ」を考えていると言う。

 続いて会場からも質問が飛び「デザインマネジメントの意識を社内全体に浸透させるには?」などの問いがとび出したが、第1回に続いて今回も議論は懇親会へと流れ込み、遅くまで会場のあちこちで議論の輪が出来た。

 


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■執筆者
レポート:井原恵子

●日程:9月26日(金)18:00開場 18:30〜20:30

●会場:東京ミッドタウン・デザインハブ(六本木)

    港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー5Fリエゾンセンター

    http://www.designhub.jp/access/

●主催:(公社)日本インダストリアルデザイナー協会 ビジョン委員会

●協力:(公財)日本デザイン振興会(予定)/日本デザイン学会プロダクトデザイン研究部会

 

●プログラム:

講演1「デザイン思考とデザインマネジメント(仮)」

    田子學(エムテド代表取締役)

講演2「オムロンヘルスケアにおけるデザイン思考(仮)」

    小池禎(オムロンヘルスケア・デザインマネージャー)

講演3「総合デザイン事務所におけるデザイン思考の展開」

    田中一雄(GKインダストリアルデザイン代表取締役社長、JIDA理事長)

モデレータ: 山崎和彦(千葉工業大学デザイン科学科教授、JIDA理事)

 

■講師プロフィール

 

●田子學(たご まなぶ)

エムテド代表取締役 アートディレクター/デザイナー。東京造形大学II類デザインマネジメント卒。株式会社東芝デザインセンターにて多くの家 電、情報機器デザイン開発にたずさわる。同社退社後、株式会社リアル・フリートのデザインマネジメント責任者として従事。その後新たな領域の開拓を試みる べく、2008年株式会社エムテドを立ち上げ、現在にいたる。現在は幅広い産業分野において、コンセプトメイキングからプロダクトアウトまでをトータルで デザイン、ディレクション、マネジメントしている。

 

●小池禎(こいけ ただし)

オムロンヘルスケア株式会社 商品事業統轄部

デザインマネージャー。1979年京都工芸繊維大学意匠工芸学科卒、マツダ株式会社にデザイナーとして入社。1984年〜1989年デザイナー として欧州駐在。1986年〜1999年マーケティング本部に在籍、ブランド戦略、VI戦略を担当。2000年〜2003年デザイン本部、チーフデザイ ナー。2003年オムロンヘルスケア株式会社に入社、商品事業統轄部デザインマネージャーとして、ユニバーサルデザイン戦略、ブランドアイデンティティー 構築に向けた健康機器、医療機器のデザインマネージメント、モニタ評価によるヒューマンセンタードデザインを推進。

 

●田中一雄(たなか かずお)

GKインダストリアルデザイン代表取締役社長、JIDA理事長。1956

年東京生まれ。東京藝術大学大学院修了。(公財)日本デザイン振興会理事。国際インダストリアルデザイン団体協議会(ICSID)前理事。中国国際デザイン産業連盟副委員長。グッドデザイン賞、Red

Dot Design 賞など国内外の審査員を多数歴任。プロダクトから都市環境まで多様なデザインを手掛けている。

更新日:2017.09.07 (木)