ADA International Student Design Workshop 2017 JAPAN | Industrial Design

ADA International Student Design Workshop 2017 JAPAN

ADA 国際学生デザインワークショップを久留米市にて開催

平川 真紀

タグ:ADA,ISDW,渉外委員会,教育委員会    カテゴリー:EVENT

 

JIDA、CIDA(台湾インダストリアルデザイナー協会)、KAID(韓国インダストリアルデザイナー協会)の三団体によるADA(Asia Designers’ Assembly)の事業、国際学生デザインワークショップを九州にて開催。JIDA主催の今年は「ITADAKIMASU –Expression of Gratitude -」をテーマに無事に一週間のワークショップを終えた。

 

日本、台湾、韓国が交代で開催国となり毎夏実施してきたこのワークショップ、2002年のスタートから14回目、日本開催は6回目を数える。今年は8月21日から27日の日程で、久留米市の石橋文化センターにて日本18名、台湾24名、韓国7名、特別参加の中国14名の合計63名の学生が1週間の時間を共有し、チーム毎のデザイン提案を行った。
 今年は「いただきます –感謝の表現-」をテーマとした。「いただきます」という言葉にある日本人が継承してきた普遍的な意味とは何か。日本の文化や精神性、継承されてきたものづくりの伝統と精神、そしてデザイナーに必要な考え方までを学生が深く知り、気づき、考え、活発な議論ができるよう、全体のプログラムを入念に計画した。

 

楽しみながらテーマについて考えるフィールドワークと見学会

到着後、10のチーム分けが発表されチーム毎に中州でのフィールドワークへ。屋台文化を楽しむ学生たちの笑顔が嬉しい。翌日の有田と久留米での見学会から本格的なワークショップがスタートとなる。

 

有田焼の産地に見る仕事の美しさ、伝統と革新

作陶から仕上げまでのすべての行程を自社で行う有田最大のメーカーである香蘭社、そして実は分業が多い産地であるが故の悩みを解消するためにつくられた陶都肥前ものづくり協同組合、ふたつの違った特性を持つ工場を見学。卓越した技術力、美しいプロセスの裏にある職人の日々の鍛錬を目の当たりにした。
 2016年のミラノサローネで発表された「2016/」(国内外のデザイナーとのコラボレーションで生まれた有田焼のリブランディング事業)のショールームも見学。佐賀県窯業試験センターにて「有田焼創業400年事業」でもあるこのプロジェクトについて、デザインディレクター浜野貴晴氏にご講演頂いた。
 凛とした緊張感が漂う現場は学生にも刺激的だったようだ。味わいある建物が多く残る有田の景色も魅力的で数時間の滞在だったことが少し悔やまれる。

 

久留米絣の工房で学ぶ「自然の恵みをいただく」という姿勢

重要無形文化財 久留米絣技術保持者会会長でもある松枝哲哉氏、小夜子氏の工房、藍生庵へ。山懐に抱かれた素晴らしい環境の中、染料作り、括り、織など、30にも及ぶ全行程のうちのいくつかを拝見。緻密に計画され実施されるプロセスに一同感動。
 子どもの成長や幸せを願って祈りを込めて作られてきた歴史、絣だからこそ叶う(先染めなので表裏なく裏返しても同じ模様、洗う程柔らかくなる染料特性、丈夫な綿素材)「丁寧に作り、長く使う意味」についてなど、インスタントな消費にはない価値を深く考える時間となった。
 この時期しかできない生葉染めも体験させて頂いた。庭から藍の葉を数枚いただき、水を加えて布にもみ込む。水にさらすと深い緑から美しい藍色に一瞬で変化、歓声が上がる。「自然の恵みをいただく体験」としてこれ以上の場所はなかったのではないだろうか。夕暮れの光の中、みんなで下った坂道はとても美しかった。

 

体験で得たことを違う視点で考えるレクチャー

限られた時間の中で更に深く考えられるよう、「生活をデザインする:文化の観点からみたデザインの在り方」をタイトルに千葉大学大学院工学研究院 植田憲教授にご講演頂いた。
 「いただきます」は資源を与えてくれる地域の自然・空間そのものに対する感謝。「もったいない」はものを大切にする心、ものを最後まで使い尽くす精神。更に既存のものを使用目的に適った「ものづくり」に活用していく「ブリコラージュ(Bricolage・仏)」についてもご教授頂いた。
 植田研究室院生による研究発表も行われた。ものづくりに見られる「いただきますの文化」についてのプレゼンテーションは、各チームのテーマ設定に非常に効果的だった。

 

多国籍なグループワークでの学び

レクチャー終了後は3日間弱のグループワーク。言葉の問題を超え、伝えたいことを伝え、相手の意見を理解しようとする姿勢。時に楽しく、時に熱く、時間と共にチームの結束も高まっていく。2日目になると自分の得意なことでチームに貢献しようとしている様子が伺える。他国の学生から刺激を受け、自分に足りない部分、そして自信が持てる部分を知る。自己発見にもなる貴重な時間ではないかと思う。

 

ユニークな最終プレゼンテーション

最終プレゼンテーションは各国理事も加わっての講評。今年はテーマの特性もあり、プロダクトだけでなくアプリケーションやシステムの提案が多く生まれたことも特徴のひとつかと思う。食にまつわることだけでなく、人と繋がることの喜び、生きていることへの感謝、捨てられるものに新しい価値を吹き込むこと等、「いただきます」の解釈は多岐にわたった。彼らの世代の流行や価値観が表現されていたことも興味深い。(acronym(略語)やInstagramの流行、所有よりも共感することへのバリュー etc.)
 「感謝の表現」という部分についてはどのチームも既存にない新しい提案ができた。共に過ごした時間の中で「いただきますの精神」を深く理解したからこその結果である。
 ストーリーを効果的に伝えようと、ムービーや寸劇を使ったチームも多かった。手法はともかく「みんなで楽しむこと」をわかっているチームは強い。それは実社会のデザイン開発現場でも同じことだろう。

 

Farewell Partyそしてお別れ

プレゼンを終えた充実感の中、フィナーレ。久留米の楢原利則市長よりご祝辞を頂戴した。この事業がアジアのインダストリアルデザインの発展へ繋がることへの期待を述べられた。
 ほぼ全員が徹夜明け、終わった開放感もありどの顔も最上級の笑顔。気持ちが溢れて泣いてしまう学生もいる。各国理事、運営チームも学生たちと最後の時間を楽しんだ。

 

みんなの心にいつまでも「ITADAKIMASU spirit」

「いただきます」というテーマは過去のテーマと比較すると広義な設定だったが、結果として互いの国の類似性や差異も深く知ることができる良いテーマであったと思う。食文化だけでなく、感謝や敬意が日常生活やデザインをする上で欠かせないコンセプトであることを参加者全員で共有できたことは大きな喜びである。
 帰国後も学生たちはSNS上で活発に交流を続けている。濃密な時間の中で得た友は一生の友となるだろう。事実としてこのワークショップにはリピーターも多い。学生にとって価値が高いということの証だろう。JIDAの若手育成事業、そして国際交流事業として今後もさらに進化させていきたい。
 開催期間中、3名の学生にチューターとして運営チームに入ってもらった。笑顔で最善の対応にあたってくれる彼らの力なくてはスムーズな運営は叶わなかった。
開催にあたり多くの方に献身的とも言えるお力添えを頂いた。ここに最大級の感謝の気持ちを表したい。みなさまのあたたかいお気持ちをいただきました。ずっとずっと忘れません。

 

■執筆者
平川 真紀

■協力
公益財団法人 石橋財団
公益財団法人 久留米文化振興会

■協賛助成金
公益財団法人 久留米観光コンベンション国際交流協会
公益財団法人 三菱UFJ国際財団

■ツールのご提供
株式会社 TOO

■ワークショップ・プレゼンテーション会場監理と運営
石橋文化センター       総務課課長補佐 舩津 將義 様
               企画営業課長 下田 由布美 様
               スタッフの皆様
久留米文化振興会       常務理事 森山 純郎 様

■有田焼見学
佐賀県窯業技術センター    外部アドバイザー 浜野 貴晴 様
               所長 吉田 秀治 様
               事業デザイン課 課長 副島 潔 様
               スタッフの皆様
株式会社香蘭社 有田工場   工場長 森 啓輔 様
               スタッフの皆様
陶都肥前ものづくり協同組合  理事長 渕野 和弘 様
有田焼卸団地協同組合     専務理事  原口 秀夫 様
               事務局長 川尻 和彦 様
佐賀県産業労働部       経営支援課地場産業担当 係長 古賀 健太郎 様
口石やすひろ整形外科クリニック 口石 真弓 先生

■久留米絣見学
藍生庵 久留米絣技術保持者会会長 松枝 哲哉 様
                 松枝 小夜子 様
                 スタッフの皆様
■レクチャー
千葉大学大学院工学研究院     教授 植田 憲 様
                 ゼミ学生の皆様
■引率・指導
KAID: Assistant Professor Nam, Won Suk, Kookmin University
CIDA: Professor Young, Min Jho, DaYeh University
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■ADA International Student Design Workshop運営スタッフ
【プロデューサー】 理事     黄 ロビン
【ディレクター】  理事     平川 真紀
【アドバイザー】  副理事長   御園 秀一
【学生チューター】 千葉大学   孟 晗
          多摩美術大学 王 和謙
          崇城大学   杜 君杰
忘れがたい時間を共にした63名の学生たちの素晴らしい未来を祈ります。


■執筆者プロフィール

●平川 真紀 (ひらかわ まき) 

有限会社ヒラカワデザインスタジオ 代表
URL: http://www.hirakawa-design.com


金沢美術工芸大学 産業美術学部 工業デザイン学科卒。
松下電工株式会社(現・パナソニック株式会社)勤務を経て2001年独立。
公益社団法人 日本インダストリアルデザイナー協会 理事(2015年〜)


2013年よりJIDA渉外委員として活動。2015年からはスタンダード委員会担当理事、渉外委員としての活動、新規受託事業の獲得と推進など「Value Up JIDA」に向け日々奮闘中。

 

 

更新日:2017.09.07 (木)