キッズデザイン実践ツール<KIDS DESIGN TOOLS>の使い方
子どもの科学的データを活用した安全設計の実践
金井宏水 スタンダード委員会委員長

人が造った製品や環境によって引き起こされる子どもの事故が後を絶たない。
例えばプールの排水口、公園の遊具、電気ケトルなどによるものである。このような事故はAccident(事故)ではなく、Injury(傷害)と捉えるべきものと考える。海外では、熱傷、転落死、医薬品の誤飲などは、避けられないものではなく「予防可能」であることが科学的に実証されている。つまり、人が造ったモノによって引き起こされた事故は、人の智恵によって事前に防ぐことができると考えるべきである。
キッズデザインは、子どもと接触する可能性のあるもの全てに当てはまる概念である。子どもたちの安全・安心に貢献し、創造性を育み、子どもを産み育てやすい社会を実現するためのデザインと理解していただきたい。子どもに多少の怪我はつきものだが、死亡に繋がる事故、後遺症の残るような重篤な怪我を防ぐことがデザインでできるのなら、それは大いに実践していかなければならないと思う。
私たちデザイナーは、どんな製品を考える場合でも、たとえ産業用機械の開発においても、子どもがそれに触れることを想定したデザインを行なわなければならない。それはメーカーの義務であり、デザイナーの責任であると思う。
では、私たちが行なうデザイン業務の中で、子どもの安全対策をどのように実践したらいいか?それは以下のようなものである。
- チェックリストの作成・・・・・要求仕様書に子どもが接触した場合のリスクに関する項目を網羅しておくこと。具体的寸法制限なども明記
- 開発の各段階でのチェック・・・子どものからだ図鑑やパスデータによる寸法チェック
- 試作品による検証・・・・・・・KIDS DESIGN TOOLSを使ったシミュレーションを実施
1.においては、子どもが関わるあらゆる危険を想定した要件を漏らさず盛り込むことが重要である。これには「子どものからだ図鑑」の事故データページが参考になる。
2.のデザインや設計段階では、PC上での寸法検討にCAD対応したパスデータ集が大いに役立つ。
3.の試作段階においては、原寸大トルソーを使ったシミュレーションが有効である。2.5D、2D、3Dの3種類があるので、製品や検証個所によって使い分けることができる。

これらKIDS DESIGN TOOLSは、政府系研究機関が長年かけて計測した日本人の子どもの膨大な実測データから割り出した平均値を基にしている。原寸のツールは1歳、3歳、6歳の3種類だが、図鑑やパスデータに掲載されているデータは、6か月の乳児から1歳、1,5歳、2歳2,5歳・・・・・9歳までの12段階に細分化されており、信頼性の高い化学的データといえる。デパートにある子どものマネキンとは基本的に異なるものである。
JIDAメンバーをはじめとした実践で活躍するデザイナーは、是非ともこのツールを身近に置き、全ての開発案件において活用していただくことを切に願うものである。
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■執筆者
金井宏水
スタンダード委員会担当理事・委員長
■執筆者略歴
日本インダストリアルデザイナー協会 理事
株式会社TDC 代表取締役社長、大学講師
武蔵野美術大学造形学部工業デザイン卒業
在学中にデザイン事務所を設立 1982年他事務所と合併し㈱エームクリエイティブプロダクツを共同設立 OA機器、通信機、オーディオ機器、文具・雑貨等々、幅広い分野で数多くの商品化実績を残す 1999年㈱TDCを設立「人とモノとの楽しいコミュニケーション」をテーマにモノづくりをしている。
■読者へのメッセージ
皆さんは1歳の子の平均身長や手の大きさを知っていますか?その子が座る椅子のちょうど良い高さが分かりますか?
どのような製品や環境のデザインを考える上でも、子どもが触れることを前提とした安全設計が必要です。
このKIDS DESIGN TOOLS を是非お手元に置いて、お仕事や研究にご活用いただきたいと思います。