最近体験したデジタルデザイン
3Dプリンターの使い勝手など
佐々木彰男
最近RP(3Dプリンター)がブームだが、実際に使って見ると、良い点、悪い点が見えてくる。まず利点から書くと
- 型の抜き勾配や、NC(特に3軸)の様に加工方向やエンドミル(加工する刃物)長さに関係なく、ボトルシップの様な物まで自由に作れる。
- 材料や製法が進化してプラスチック以外に金属なども成形できる様になった。安い、着色可能、丈夫などの材料も増え、少量生産にも使える場合がある。柔らい物や透明なプラスチック材料もある
- NC加工機に比べ騒音が非常に少なくデスクサイドでも使える。
- 3Dプリンターは外国製が多いが、メーカーが増え、特許切れなどの結果、加工範囲の狭い安い物では10万円位から買える様になった。
欠点は
- 0.1mm程度の成形ピッチの線形の凸凹、モアレができてザラザラしたマットな見栄えになる、NC加工に比べ仕上げに手間がかかる。
- 例えば人形を作る場合、機械によってはサポート(この場合は杖の様な物)を一度成形し、後加工で削除する必要がある。
- NC加工に比べ高精度な「隙間が全くない」完全な3Dデータが必要、複雑な形状の場合はRPに合った高度のCADスキルが要求される。
- 薄いパネル物などを作るのも得意だが、NC加工に比べ少し変形が出やすい
- 利点でもあるが、多種多様の原理と製法、メーカとモデル、使用法とノウハウ。しかも日新月歩なので選択肢が多すぎる。
RP自体20年以上前から存在してきて、近年急に脚光を浴びた製法。値段を含め専門技術が一般化した事は評価できるが、これ一つでガラッと世界が変わるとは思えない。今後デジカメとカラープリンターの様に3Dプリントが一般に普及するかは、デジカメの様な手軽さでCADデータの作成ができるか?、又は音楽替わりに3D形状をダウンロードできるかに大きく依存している。
【写真1】 写真1は デザインCAD Aliasでのサーフェスデータのエラー表示。矢印で微細な隙間などを示す。一つでもあると成形できないので精密なモデリング作業とノウハウが要求される。
【写真2】 写真2は RP専用編集ソフト“Netfabb”の画面、ある程度の修正は可能。RPでは隙間のない閉じた形(ソリッドモデル)が必要だが、各種CADファイルからメッシュ(ポリゴン)と呼ばれる.STL形式に変換して3Dプリンターに渡す。
写真3】 写真3は 大手サービスビューロー、“Shapeways”(米)のページここに登録してネットショップを持つ事も出来る。日本でもFab Lab, MakersloveやDMMなど続々と登場しているので覗いてみるのも面白い。
【【写真4】 写真4は RPデータ作成にも使えるAutodeskの無料3Dソフト群、他にSketchUPなどのフリーソフトもポピュラー。
【写真5】 写真5は マレーシアの新興R&D会社 “DreamEDGE”の開発、トレーニングセンターにあるハイエンドCADが動く70台のサーバーPC群。他の場所には大型RP機も設置されている。
中程度以上の新興国では政府、有力企業がデジタル振興に熱心で、日本でも経産省やIT企業などを核にした、より一層のバックアップが望まれる。
■執筆者
佐々木彰男
(株)デジクラフター (工業デザイン事務所主催)
((株)デジクラフターHP http://digicrafter.co.jp
■執筆者略歴
早大文学部美術専攻卒業後、いすゞ自動車工業デザイン部にて143ミッドシップスポーツ,117クーペ、エルフ他 長年実務に従事、現在も使用する
デザインCADのAlias/wavefront社に移籍して太平洋地区技術マネージャーを務める。98年よりデジクラフターを設立して、主に自動車系の内外装デザインを仲間と共に手掛けている。
■読者へのメッセージ
今年は駐在的な海外業務が多く、しばらくはJIDA運営・連絡会などにも出れません、計画していたPCデザイン研究会のRPセミナーも当分延期にしました。
その分地理的な制約を受けないこのWebページなどで情報発信できればと思います。