デザイン再考<br />その1「温故知新=歴史は繰り返す!?」 | Industrial Design

デザイン再考
その1「温故知新=歴史は繰り返す!?」

JIDAフォーラム進行後記からの発展形として

蘆澤 雄亮

タグ:JIDAフォーラム,デザイン再考    カテゴリー:NOTE

 

昨今、デザイン思考(Design Thinking)という言葉をよく耳にします。それはどこで耳にするか?というと、デザイナーではない方々の話からです。2017年のJIDAフォーラムも「デザイン思考」をテーマに開催した結果、多くのJIDA会員意外の方々にご参加いただいたと聞き及びます。このデザイン思考ブームとも言える昨今の状況、いわゆるデザイン業界からは賛否両論、様々な意見を聞きますが、個人的には様々な方が「デザイン」という言葉に着目してくれているという点では喜ばしいことと考えています。

さて、そんなデザインブームですが、果たしてこれで何回目になるのでしょうか?というのも、これが初めてではないのです。例えば工藝ニュースのVol.22の9号(1954年)には「デザイン・ブームをどう思う?※1」という記事が載っています。試しに読んでみてください。恐らくデザイナーの方であれば、思わず笑みがこぼれてしまうのではないでしょうか。ちなみに、私はこれを初めて読んだ時に思わずニヤリとしてしまいました。理由は簡単です。「今も昔もたいして変わらないな」と思ったからです。「なんか10年ぐらい前にこんな話がよく出てきていたなぁ」といった感じです。でも約65年も前の話なんです。

では、先の1954年の記事が10年ぐらい前のイメージとするならば、その10年後の工藝ニュースはどうなのでしょう?ということで、約10年後の工藝ニュースを覗いてみましょう。工藝ニュースのVol.31の4号(1963年)に「工業デザインと現代の混乱※2」という記事があります。GKデザイングループの始祖でもある小池岩太郎先生が書かれた記事ですが、ここで小池先生はこのように述べています。

 

工業デザインにおける専門化への傾向は益々深まっていくでしょう。そしてそのために全体との関連を失って一部に調和を欠く仕事があることも認められます。しかし専門化のために他の分野との関連や幅の広い文化との接触を失うようでは、本当のデザイナーとはいえません。私たちはこの点についても反省し常に総合価値の判断を忘れぬよう心がけねばならないでしょう。
(小池岩太郎/工藝ニュース Vol.32, No.5, pp.52)

 

どうでしょう?なんか今の我々にもグサッと刺さりませんか?なんか歴史が回っているというか。繰り返しというか。悪く言えば「昔から何も変わっていない」という言い方になりますし、良く言えば「昔の方々は真に追求してよく考えていらっしゃる」という言い方になるのでしょう。
何が言いたいのか?というと、デザインブームが何回目か?という話は取りあえず置いといたとして、なんだか昔の書物を眺めてみると、今の我々にも身になることが沢山書いてある。つまり、デザインほど過去の書物に読み甲斐のある分野はないのではなかろうか?ということです。いわば、デザインは温故知新のしやすい分野であるという話です。私は懐古主義者ではないので、「昔に戻れ!」などと言いたいわけではありません。単に「デザインは過去から学べることも多いぞ!」と言いたいのです。実はそれが今回のJIDAフォーラムシリーズで20代〜60代それぞれの年代の方々に一緒にご登壇いただいている理由です。20代の方々の血気盛んな話、40代の方々の苦悩、そしてそれらをすべて経験した60代の方々が最後にこれらを一本につなげてしまう。これを実現したいなぁというのが裏に秘めた想いです。温故知新のしやすい分野だからこそ成立するのではないか?という風に考え、チャレンジしている次第です。進行的には中々難しいのですが…。また、テーマが渋いので中々集客には繋がらないのがネックでもありますが…。

 

と、前置きが長くだいぶ遠回りをしましたが、実は「JIDAフォーラムに関連した記事としてINDUSTRIAL DESIGNに何か書いてみないか?」というお誘いを受け、今回の話を書いてみました。JIDAフォーラムの詳細なレポートは既に立派なモノが載っている。さて、私は何を書こうか?ということで、どうせ書くならJIDAフォーラムでは言えていないことをここに書いてみようと思った。というのが事の顛末です。で、さらには「どうせ書くならJIDAフォーラムもシリーズだし、こちらも連載にしてしまおう」というのが今の考えです。次回以降からはJIDAフォーラムという枠から少し離れたモノへと進んでみようかと思います。では、どんなモノかというと、先に書いたとおり、デザインは温故知新がしやすい分野というのが私の見解なので、連載では様々なテーマに対して過去を振り返りながら未来を考えてみたいと思います。次回は今回の話で答えを明言しなかった「デザインブームはこれで何回目なのか?」を踏まえつつ「デザイン思考」について書いてみようかと思います。

※1 https://unit.aist.go.jp/tohoku/techpaper/pdf/3286.pdf
※2 https://unit.aist.go.jp/tohoku/techpaper/pdf/4404.pdf

■執筆者
蘆澤 雄亮 芝浦工業大学

■執筆者略歴
芝浦工業大学デザイン工学部助教。
1979年生まれ。
千葉大学工学部デザイン工学科、修士・博士課程を経て、博士号を取得。
日本デザイン振興会にてGマーク事業推進ほかインターナショナル・リエゾンセンター担当として産学連携を コーディネイト。
2017年より芝浦工業大学助教。
「職人の勘といった暗黙知を型式知化する」ことをテーマにデザインを指導。

芝浦工業大学/デザインプロモーション研究室
http://www.shibaura-it.ac.jp/laboratories/yusuke_ashizawa.html

 

 

更新日:2018.10.04 (木)